『風立ちぬ』(2013年) レビュー
☆☆☆ 5点満点中
「生きねば。」
この映画を撮ったのが宮崎駿監督でなければ、きっともっと高く評価されたはず。
それくらいよく出来た映画だった。
宮崎駿ブランドで観客の期待値がぐっと上がってしまうのは仕方がないにしろ、『風立ちぬ』が世間ではあまり評価されてないようなのが残念だ。
しいてわたしの気に入らなかったところを挙げるなら、男女のやや古臭い愛の表現が見ていて気恥ずくなったことくらい。
大正から戦前にかけての混乱期を堀越二郎の人生にシンクロさせながら、一気に駆け抜けて面白いのは、やはり監督の手腕の高さゆえだろう。
日本禁煙学会からクレームがつくのも納得の喫煙シーンの数々。
けれど、当時の働く男たちを描いて、だれも一本もタバコを吸わなかったらその方が不自然だろう。
タバコが大人の男のシンボルだった時代があった、と大らかに受け止めたい。
里見菜穂子が入る冬の高原病院の寂しいことといったらなかった。
若い娘ばかり、高原病院のテラスに並んだベッドで寝かされていた。
麓で娘の無事を祈る親御さんたちは、どんなにか胸が張り裂けそうな気持ちでいただろう。
愛する男を思いながら、自分ひとり死の病に冒されていく女の悲しさに泣けた。
宮崎駿監督は風の描き方が独特でうまい。
菜穂子が野外で写生をしていると、下草を震わせながらいきなり風がびゅうっと迫ってくる場面にゾクゾクした。
『千と千尋の神隠し』にしろ『とならのトトロ』にしろ、ジブリ映画は背景画が写実的で色鮮やかで、とくに植物とか建物とか、いつまでも眺めていたくなるほど美しかった。
しかしいつからか画風が変わってしまった。
『風立ちぬ』の背景画には少し物足りさを感じた。