佐藤愛子『九十歳。何がめでたい』 レビュー
☆☆☆☆ 5点満点中
著者の佐藤愛子さんは90歳。
顔なじみのほとんどがあの世へ行ってしまい、生き残った人たちもやれ脚が折れたやら、癌になったやら認知症になった、というひどい有り様。
日がな一日、会う人もなく、何もすることがなくなった著者は、老人性ウツ病になりかけて、怒りっぽい性格になっていた。
スマートフォンの使い方がわからず腹を立て、三越の最新式トイレの流し方がわからず汗をかく。
地下鉄のホームで見かけた、漫画を読むホームレスの話にほろりと泣けた。
新聞をよく読み、とりわけなかでも人生相談コーナーを愛読している著者。
私ならこう答えるとばかりに、実際の回答者よりもうまい回答を披露していたのが可笑しかった。
好奇心旺盛な著者は、旬の話題にも敏感に反応する。
寝屋川市中学生殺人事件、高嶋ちさ子さんゲーム機バキバキ事件など。
過激過ぎて私には受け入れられない意見もあるにはあった。
しかし、90歳の作家の意見と自分の意見が違うのは当たり前のこと。
納得したり反発したり、考えさせられることしばしば。
読後感は佐野洋子さんのエッセイを読んだときと似ていた。
たのしく笑えて、すこしホロリとしてしまうところは同じだ。
人生八方ふさがり気味に思える人が読むと、少しは気が楽になるかもしれない。
文章に気取ったところがなく、読むと気持ちがふっと軽くなる。
自分のことを、気の短い、ババア、なんて言うところなんて、佐藤愛子さんと佐野洋子さんはそっくりだ。
温かさと切なさの混じった素敵な本だった。